続かないのは「意志が弱い」せいじゃない
「どうしても続かない」「3日で飽きる」「やる気が出ない」——
こうした悩みを多くの人が口にします。
でも、あなたが怠けているわけではありません。
“続けられない”は、気合いや根性の問題ではなく“設計の問題”です。
行動科学の研究によると、人間の行動の約40〜50%は「無意識の習慣」によって決まっています(Wood, 2017, Annual Review of Psychology)。
つまり、意志の力が介入している時間は一日のうち、ほんの数分に過ぎません。
にもかかわらず、「意志力を鍛えろ」と自分を責めてしまう。
まるで、設計の悪い家の住人が「根性で寒さを我慢しよう」としているようなものです。
環境があなたを動かしている
私たちの脳は「環境の信号」に極めて敏感です。
米スタンフォード大学のB.J.フォッグ博士の研究によれば、
「行動を変える最も効果的な方法は、環境を変えること」であると示されています(Fogg, 2019, Tiny Habits)。
たとえば:
- ダイエットを続けられない → 甘いものを置く場所を変えていない
- 読書が続かない → スマホの通知が横で鳴っている
- 朝の運動が続かない → 前日にウェアを用意していない
続かない理由は、「環境設計が意思を裏切るようにできている」からです。
人は“最も抵抗の少ないルート”に流れます。
そのルート上に「望ましい行動」がなければ、続くわけがありません。
続ける人の仕組みは「設計されている」
ここで重要なのは、「続く人は意思が強い」のではなく、
“続ける仕組み”を意図的に作っているということ。
例を挙げましょう。
- 仕事前に10分の読書を続けている人は、
→ 出社後すぐのデスクに本を置いておく。 - ジムをサボらない人は、
→ 行く曜日を「予定表に固定」している。 - 書く習慣を身につけた人は、
→ 書く前に「椅子と机を整える」という儀式を設計している。
こうした“環境スイッチ”は、心理学ではトリガー設計と呼ばれます。
一つひとつの設計が、行動の自動化を支えています。
仕組みを変えると、行動は変わる
環境を変えると言っても、大げさなことは必要ありません。
小さな「物理的・時間的・社会的なスイッチ」を設計するだけで、
人間の行動は確実に変わります。
ここから紹介する3つのワークで、
あなた自身の“継続設計”を作ってみましょう。
ワーク1|「続かない環境マップ」を描く
まず紙を2列に分けます。
左に「続けたい行動」、右に「邪魔している環境要因」を書き出しましょう。
例:
| 続けたい行動 | 邪魔している環境要因 |
|---|---|
| 朝ラン | スマホのアラームが遠くにある/寝る時間が遅い |
| 読書 | テレビの前のソファに座ってしまう |
| 貯金 | 通帳アプリを開かない/給料日を意識していない |
→ ポイントは、“自分の弱さ探し”をやめ、“環境の仕組み探し”に切り替えること。
この思考転換だけで、罪悪感が消え、設計脳が動き始めます。
ワーク2|「行動トリガー」を一つ設計する
行動を始めるための「合図(トリガー)」を作りましょう。
最も簡単な方法は、“直前の行動と結びつける”ことです。
例:
- 歯を磨いたら、3分ストレッチ
- コーヒーを入れたら、本を3ページ読む
- 席に座ったら、タスクアプリを開く
→ ポイントは「やる気」ではなく、「条件反射の設計」。
感情に頼らないからこそ、疲れていても続けられる。
ワーク3|「成功の証拠」を見える場所に置く
人の脳は、「進んでいる感」がないと挫折します。
この仕組みを逆手に取りましょう。
方法は簡単。
小さな成功を“物理的に”見える場所に残すことです。
例:
- カレンダーに「やった日」に✔を入れる
- 使い終えたペンを机に並べる
- 学習ノートを1冊ずつ積み上げる
脳科学的には、これをドーパミン・ループと言います。
「成果が見える→脳が快感を覚える→また行動する」というサイクルが強化されます。
継続とは、設計である
続けることは才能でも意志でもありません。
それは自分の行動環境をどう設計するかの問題です。
あなたが「続けられない」と感じたとき、
自分を責めるのではなく、
「どんな設計が足りないんだろう?」と問いかけてください。
設計を変えれば、行動は変わります。
そして、行動が変われば、人生は確実に変わります。
出典・参考
- Wood, W. (2017). Annual Review of Psychology, “Habits in Everyday Life.”
- Fogg, B.J. (2019). Tiny Habits: The Small Changes That Change Everything.
- Gollwitzer, P. (1999). Implementation Intentions and Goal Achievement.
- 厚生労働省「働き方と生活時間調査」(2023)

